2018/11/29

Takuya Sugiyama/Number
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― PROFILE ―

 

西 芳照(にし・よしてる)氏

 

1962年福島県生まれ。高校卒業後、上京して料理人に。1997年、エームサービス株式会社に入社。
Jヴィレッジのレストランに勤め、99年から総料理長に就任。 2004年に日本サッカー協会の依頼によりサッカー日本代表専属シェフとなり、W杯には06年ドイツ大会から3大会連続で帯同している。以降、2010年W杯南アフリカ大会も含め、50回以上の日本代表の海外遠征試合に帯同し、選手やスタッフに食事を提供する役割を担っている。

※インタビューは2018年5月に行ないました。

 

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―― 

サッカー日本代表サムライブルーを「食」で支える大事なメンバーのお一人、西さんにお話を伺います。今日はMS&ADグループが掲げる5つの行動指針「Value」について、西さんのお考えをお聞きし、改めて、自分達に置き換えてみたいと思います。
さて、最初は「革新、イノベーション」です。海外遠征の際は調理場や器具、食材や現地スタッフなど、非常に厳しい環境下で選手たちに食事を提供しなくてはならないかと思います。その中で、新しいアイディアや選手が喜ぶような新メニューをどう開発しているのですか?

 

 西 

海外遠征でいろいろな国に行くと、現地シェフの仕事のやり方を見ながら、料理であれば盛り付けや味付けなど、色々な事を学ぶことができます。欧州に行くと、日本料理が見直されていて、様々なジャンルのシェフ達が集まって日本料理の技術を学んでいます。ごぼうを細かく千切りにして低温の油で揚げて飾りつけしたり、レンコンチップを使った料理など、色々なアイディアが出てきます。とても刺激を受けますね。自分もこのままではいけない!と思ったりしました。
この間、ベルギーに訪問した際には、現地シェフからベルギーワッフルのレシピを教えてもらって、早速、作って選手に出したりしました。でも、一番選手に好評だったのは、朝のホットケーキ。これは泊まっているホテルの一流シェフに教えてもらいました。自分で食べてみて美味しいなと思う料理はレシピを聞くようにして、どんどん挑戦しています。

 

―― 

西さんほどのベテランでも学ぶ姿勢が大事なんですね。それは「プロフェッショナル」の流儀ともいえるかと思いますが、いかがですか?

 

 西 

今までと同じことばかりしていると自分の成長はありませんし、そうするとお客さまは離れていきますよね。お客さまと一緒に新しい感覚を創造する。世の中、世代交代とか言われますけど、まだ若い世代には負けたくないという気持ちがありますから。そこが一番大事なところかなと思います。新しいことを学ぼうとする意欲、好奇心をいつまでも保ち続けることは、人生を生きる上でとても大切です。
 

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―― 

海外遠征で料理を作る際には、現地シェフを含め、「チームワーク」が必要と思いますが、チームワークを発揮する上で気をつけている事はありますか?

 

 西 

海外遠征は、ほとんど一人で行く事が多いですから、現地スタッフのチームワークが上手く機能しないと困ります。最初はお互い様子見ですよね。初日は海外から来た日本人シェフが何をしているのか、現地スタッフは遠くで見ているだけです。どこに何があるのかを把握するために、彼らに教えてもらうのが基本です。翌日からは様子もわかってくるので、冗談を言ったりして和やかなムードになります。中東に行ったときには、現地のシェフと一緒に歌ったり、踊ったりしましたよ。現地スタッフも喜んで手拍子したりしてね。もちろん、日本ではやりませんが(笑)
自分をさらけ出して、みんなと打ち解けることで、現場の雰囲気が良くなります。笑うことで心にゆとりが生まれます。
ロシアでは、現地スタッフと買い物に行き、ローカルの人が利用するお店を紹介してもらい、とても得した経験もあります。ロシア人はとても親切ですね。こちらも誠実に接することで信頼関係が生まれます。

 

―― 今、「誠実」というキーワードが出ました!笑 西さんにとって、「誠実」とは何ですか?

 

 西 

僕の場合は、仕事を丁寧に抜かりなくやることですね。仕事に真剣に取り組む姿勢は回りの人が必ず見てくれています。日本人特有の勤勉さは海外どこにいってもきちんと評価されると思います。仕事では、集中するところは集中して、リラックスする時は思いっきりリラックスして、メリハリをつけることが大事ですね。

 

―― 最後のトピックは「お客さま第一」です。西さんが考えるお客さま第一とはどんな事ですか?

 

 西 

商業的にはお金を払って食べに来てくれるお客さまにとって、最高のおもてなしと品質を提供するのは当たり前のことです。サッカー日本代表の帯同シェフの仕事では、代表選手の健康管理が一番大事です。そのためには、まず厨房の衛生管理を確認します。例えば、30度を超す厨房で、肉魚野菜全て同じまな板と包丁で扱う事は非常に危険なので、そうしないように現場での周知を徹底し、決して食中毒が起きないように最新の注意を払います。料理の内容は、ライブキッチンで温かい料理を作り、和風の料理には温かいご飯とお味噌汁を出し、試合の日はおにぎりとうどんを食べてもらって、どの選手も90分間走れるように、選手に喜んでもらえるような美味しい料理を出すようにしています。選手たちの食べている時の笑顔をみるのが活力の源です。決められた素材で色々な工夫をしながら、朝昼晩と食事の用意をしています。単に料理を作るだけでなく、もっと何かできないかと常に考えています。One Moreの気持ちを持ちながら、異国の場所で、限られた食材で、睡眠時間を削ってでも、選手たちが喜ぶ料理を作ってきました。そういう姿を回りの人が認めてくれたからこそ、ここまで10年以上帯同シェフとして頑張ってこられたのだと思います。

嬉しいことに、選手たちが「西さんががんばってくれるから、俺たちも勝ってこようぜ。」「優勝したら、一緒にピッチでお祝いしよう!」と言ってくれるんです。頑張りが報われる瞬間ですよね。すごく大事なことは、お金ではなく、スタッフみんなが同じ想いを共有できることなんじゃないかと思います。同じピッチには立ってなくても、選手のみなさんと同じ気持ちで料理を作れることが何よりも誇りです。

 

―― 

心温まるお話ありがとうございました。元気が出て来ました!