2023/7/6

 

― PROFILE ―

 

中野 江利子(なかの・えりこ)氏

1979年生、群馬県出身。高校時代に陸上部のマネージャーを務め、アスレティックトレーナーになることを志す。国際武道大学に進学し、同大学院で運動生理学について学ぶ傍ら、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースでトレーナーを担当する。陸上の実業団チームに就職した後、2011年から年代別の日本女子代表アスレティックトレーナーとして携わり、その後なでしこジャパン担当として女子ワールドカップにも帯同。現なでしこジャパンには育成年代当時から担当していた選手も多く、厚い信頼を寄せられている。

※インタビューは2023年6月に行いました。
 

 

  
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 ──アスレティックトレーナーとして長期間にわたってチームをサポートされていますが、なでしこジャパンとの最初の関わりは?

 中野 

陸上の実業団チームでトレーナーを務めていた頃、JFAからお声がけをいただきました。国際武道大学大学院に在学中にジェフユナイテッド市原・千葉レディースを担当したことがあり、次代のなでしこジャパン育成に向け日本女子代表の育成年代を担当するトレーナーとして私にお声がけいただいたようです。2011年から携わらせてもらっているので、当時中学3年生、高校1年生だった選手が今のなでしこジャパンにたくさんいます。選手とはよく「お互い年をとったね」なんて言っています(笑)。

 

──育成年代からの付き合いということで、選手からの信頼も厚いのではないでしょうか?

 中野 

そう思ってくれていたら素直に嬉しいです。ただ彼女たちが育成年代だった頃に負傷をした箇所や、選手ごとのケガの癖や傾向を把握できているのは大きいと思います。鍼灸師の資格を持っていて、選手の治療はマンツーマンで行うことが多いのですが、当時ケガをしてしまった悔しい思い出などの昔話をすることがあります。悩み相談を受けたり、たまには愚痴を聞いたりもしますが(笑)、彼女たちがリラックスできることが一番だと思っています。

  
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―― トレーナーとしてアスリートのコンディションを維持するために日々気を付けていることはありますか?

 中野 

私は選手のことを心からリスペクトしているので、例えそれがベテラン選手であれ、中学3年生の選手であれ、トレーナーとして色眼鏡で見ることなく物事を判断するようにしています。まずは選手たちの生の声を傾聴し、私はプロとして今、彼女たちに何が必要なのかを提案させてもらっています。そしてお互いが納得した上で、治療方針、リハビリテーション、その後の処置を一緒になってやっていくことを意識しています。

 

―― 中野さんの選手に対する真摯な想いが伝わってきます。

 中野 

選手に対して「あれをやりなさい、これをやりなさい」というのが好きではありません。彼女たちにも何か考えがあるわけで、私はそれをしっかり聞き、尊重してあげたいと思っています。お互いがプロとして一緒に考えて行くというスタンスです。高校時代に陸上部でマネージャーをしていた頃、監督が選手もマネージャーも同じようにリスペクトしてくれて、互いが理解し、各々の役割を全うすることの大事さを教えてくれました。それが私のトレーナーとしての生き方や考え方の原体験になっていると思います。

―― ワールドカップに向け、なでしこジャパンのコンディショニングで重要視していることは?

 中野 

私は次が3回目のワールドカップになります。これまでの経験から失敗したこと、反省したこと、良かったことを踏まえてしっかり準備ができていると思います。ただメディカルの領域はこの段階からもイレギュラーなことが沢山起こってくるので、私たちはそれに動じずに万全の体制で臨めるようにしています。ワールドカップのような大舞台は、勝ち進んでいくことで観客の数もメディアの注目も、より大きいものになっていきます。彼女たちが過酷な戦いからメディカルルームに帰ってきた時には、家に帰ってきたような雰囲気・環境を提供できるように心掛けています。

 

―― トレーナーとしての人生の歩みはこれからもまだまだ続いていくと思いますが、ご自身の今後の目標はありますか?

 中野 

これまでトップアスリートを数多く見てきて、ジュニア世代の時にもっと適切な処置をしておけば、スポーツ生命を伸ばせたし、もっと素晴らしい選手になれただろうという思いを何度もしてきました。今はトップ・トップの世界に関わらせていただいていますが、いずれは妊娠・出産を経て復帰するママさんアスリートや、グラスルーツ普及の領域などで今までの経験を活かして恩返しができればと思っています。