2019/6/6
― PROFILE ―
高倉 麻子(たかくら・あさこ)氏
1968年福島県出身。サッカー日本女子代表監督。15歳で日本女子代表に選出され、2度のW杯とアトランタ五輪に出場。国際Aマッチ79試合出場30得点。2004年に現役を引退。2013年、U-16日本女子代表監督に就任、2014年にU-17女子W杯優勝、2016年にU-20女子W杯3位に導く。2016年4月から「なでしこジャパン」を指揮する。
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今回はサッカー日本女子代表「なでしこジャパン」を指揮する高倉麻子監督にお話しを伺います。なでしこジャパンは6月7日に開幕するFIFA女子ワールドカップフランス大会に8大会連続で出場、8年前の2011年には世界一に輝きました。今、どのように感じていらっしゃいますか?
高倉
やはり2011年の優勝の影響が大きかったですね。それまでも、女子サッカーは知られてはいましたけど、バレー部やバスケ部など昔から学校で馴染みがある球技に比べると、絶対数が少ないです。そんな環境の中でサッカーを続けてきた選手たちには、女子サッカーを広めていきたいという気持ちが強かった。他の競技の選手と比べると少し違う部分かもしれないですね。
もう一つは、2011年のインパクトのある優勝を勝ち取ったことで、選手も関係者もやればできるという強い自信につながりました。それを見ていたU-17やU-20の選手も、自分たちもそれに続くんだ、という強い思いが芽生えました。それが「勝つぞ!」という使命感に燃える選手たちのメンタルに大きく影響していると思います。
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確かに、競技だけに集中すればいいという環境とは違いますね。女子サッカーを広めていきたいという熱い思いが根底にあったということですね。
高倉
ただメンタルだけでも勝てるわけではないので、スタイルとして日本ならではの戦い方が確立したという部分もあると思います。それまでは体格に恵まれた外国選手のプレーが主流で、例えば、アメリカやドイツなどの選手は縦に速くボールを蹴り込んで、優秀なFWがゴールに向かって直線的に攻めて点を取るというスタイルでしたが、2011年のなでしこは、全員で守備をして、全員で攻撃をして、ボールを止める、蹴る、パスをつなぐ、選手全員がかかわる新しいスタイルで優勝しました。小さい体でも優勝できるということを世界に示した。これはなでしこジャパンが初めてです。日本のサッカーが一目置かれるようになって、世界の女子サッカーのスタイルも変わり始めました。
ただ、いつも勝てる実力があるかと言われるとそうではないし、欧米の選手と比べると、アスリートとしての能力はまだ及ばない。体格では敵わなくても、チームプレーや細かな技術を日本チームの強みにしていきたいと思っています。
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チームを勝利に導いていくために、マネジメントやリーダーに必要な資質は何だと思われますか?
高倉
リーダーにはいろいろなタイプがあると思います。やるべきことを全て指示するタイプのリーダーもいますし、その方が楽な場合もありますよね。
私の場合は、「あなたの役割はこれだから、あとは任せる」というタイプ。やり方は自分で考えないといけませんね。一流の選手になりたいなら、どうすれば上手くなれるか考えて、それを実行すれば良い。人に上手くしてもらう訳ではないと思います。
でも、選手が上手くなるために、どんなアドバイスが必要かは考えます。これをやりなさいと指示するのではなく、少し余白を残して、アドバイスします。その後は自分で考えて、自分の可能性を広げていってほしいと思っています。あとは、自分自身が強気でいる、自信を持つことも大切だと思っています。
―― 女性だけの環境、世代もバラバラ、チームをまとめていく上で心がけていることはありますか?
高倉
私がまとめていこうとは思っていません。ただ、気になることがあれば、個々にアプローチします。選手が自信をなくしたり、元気がなかったりは、見ていれば分かります。そこも自分で乗り越えていって欲しいですが、時にはメンタルトレーナーの力も借ります。専門家に任せるところは任せる。監督、コーチ、ドクター、みんなが自分の役割に応じて仕事をし、選手は選手の仕事をする。それがいいチームとしてまとまっていくことだと思います。
―― 最近注目が高まっている多様性(D&I)ですが、みんなが同じ思考回路にならないことが大事だといわれます。
高倉
みんなが同じ方向を目指していくのは大切です。ただ、違う視点で意見を言ってくれる人が大切ということです。自分もそういう部分を持ちたいし、新しいことを常に取り入れていたい。色々な個性を認めてあげて、みんな一緒でなくて、それぞれが活躍できる方がいい。スポーツのチームづくりと会社の組織は一緒だと思います。組織は何かを成し遂げたいという思いの人たちが集って、一緒に行動することですよね。チームスポーツはその縮図で、且つ、結果が見えやすい。だから興味深いです。
―― W杯に向けて、意気込みは?
高倉
意気込みません(笑)。
簡単ではないというのは現実にあります。やはりチャレンジですね。大会期間は長いので、厳しい局面もあると思います。でも、最後まで諦めず、何があっても勝利を目指す。そういう戦いがしたいですね。11人の選手、控え選手、スタッフだけでなく、代表に選ばれなかった選手や、それ以外のリーグの選手、リーグにかかわるすべての人、スポンサーの皆様やお手伝いいただいた皆様にも何か伝わる試合がしたい。スポーツの持つ力は、観ている皆さんがまた頑張ろうと思ってもらえるものだと思っています。自分たちだけの試合ではなくて、自分たちとみんなのための試合なんだという部分は忘れずに戦いたいと思います。
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女子サッカーの歴史から強いチームづくりまで貴重なお話をありがとうございました。
みんなが自分の仕事をきちんとやる。「歩みをとめない」なでしこジャパンを応援しています!
写真提供:JFA